塩素ガスに弱いクロムメッキとその対策方法

塩酸

クロムメッキとは

 クロムメッキは、金属表面にクロムの薄膜を施すことで耐食性や耐摩耗性を向上させる技術です。特に工業製品においては、その美しい光沢と高硬度が評価され、幅広い用途で使用されています。例えば、機械部品や金型、自動車部品などの耐摩耗性が求められる部品に多く施されます。また、硬質クロムメッキは特に耐摩耗性が高く、機械や工具の寿命を延ばす役割を果たしています。さらに、装飾的な目的で家具や家電製品、アクセサリーにも使用されることがあります。しかし、クロムメッキは塩素ガスに対して弱いという欠点があります。

塩素ガスとは

 塩素ガスは、黄緑色の気体で特殊な刺激臭を持ちます。非常に反応性が高く、多くの金属と化学反応を起こします。そのため、工業プロセスでの取り扱いには慎重を要します。化学的には、塩素ガスの分子式はCl2で、二つの塩素原子が結合した状態です。

塩素ガスによるクロムメッキ腐食の具体例

工業用途での実例

 クロムメッキは硬度が高くて耐摩耗性に優れているため、工業製品で広く使用されます。しかし、塩素ガスの存在する環境下ではクロムメッキが腐食する問題が発生します。例えば、樹脂には塩素が含まれているものも多く、樹脂の成型過程では塩素が発生します。装置やその周辺機器にはクロムメッキされている部品もあり、部品腐食が大きな課題となります。

日常生活での実例

 クロムメッキは工業用途だけでなく、日常生活でも身の回りで広く使用されており、塩素ガスによる腐食問題が存在します。例えば、水道蛇口やドアノブなどにはクロムメッキが施されているものがあります。近年、漂白剤や殺菌スプレーなどの中に塩素系の物が市販されています。これらの塩素系溶液がクロムメッキ製品にかかると、時間とともに腐食してしまう事例があります。

環境管理と予防措置

 金属は塩素ガスに対して弱いものが多く、晒される環境そのものを管理することが、最も基本的かつ重要な対策となります。環境管理を徹底することで、たとえ塩素に弱いクロムメッキであっても耐食性を維持することができます。例えば、塩素ガスが発生する場所では適切な換気や除去装置を設置することが求められます。さらに、保管や輸送時にも塩素化合物との接触を避けるための梱包材の選択や保管方法も重要です。これらの予防措置はクロムメッキの長期的な耐食性を確保するための基礎となります。

また、クロムメッキの上にコーティングを施すことで塩素ガスが直接クロムメッキに影響を及ぼさないようにすることも対策としては考えられます。クリアコーティングなどにより外観などにも大きな影響を与えることもないと思います。しかしながら、コーティングにも問題があります。それは柔らかいことです。コーティングはキズ付きやすく、キズが付くと結局は同様の問題が引き起こされてしまいます。

では、クロムメッキに代わるメッキはないのでしょうか。

塩素ガスに対応したメッキ

  塩素ガスに対して耐食性の高いメッキとしては金メッキや白金メッキなどの貴金属メッキがあります。しかしながら、これらは非常に高価なメッキである為、汎用的なメッキではありません。塩素ガスに対して、比較的高い耐食性を持ち、汎用性の高いメッキとして、無電解ニッケルメッキがあります。無電解ニッケルメッキは多数の工業用途で有用とされています。無電解ニッケルメッキはクロムメッキに比べて、塩素ガスの影響を受けにくいため、塩素ガスに対するメッキとしては有効です。無電解ニッケルメッキは硬度も高く、熱処理によりクロムメッキにも引けを取らない硬度にすることも可能です。

まとめ

金属は塩素ガスに弱いものが多く、長期耐食性を維持させるためには、使用環境を改善することが非常に重要です。クロムメッキはその高硬度と耐摩耗性から多くの工業製品に使用されています。しかし、塩素ガスに弱く、腐食する問題があります。クロムメッキと比べて塩素ガスの耐食性に優れたメッキとして、無電解ニッケルメッキがあります。

無電解ニッケルメッキについてはメッキ.comまでお問い合わせください。

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第39回 使用環境とメッキ耐食性

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